同訓異字

「変える」「代える」「換える」「替える」

原則:
変化、変更などは「変える」。代用、代理、代役、交代などは「代える」。交換、換金、置換、転換などは「換える」。交替、代替などは「替える」。
用例:
「予定を変える」「レイアウトを変える」「生まれ変わる」「季節の移り変わり」「住所が変わる」「変わり身が早い」「血相を変える」
「あいさつに代える」「店長の代わり」「投手を代える」「お代わり」「名刺代わり」「肩代わり」「身代わり」
「チケットをお金に換える」「小切手の金額を書き換える」「住宅ローンを借り換える」「空気を入れ換える」「次の駅で乗り換える」「人質と引き換えに」「言い換えると」
「日替わり定食」「建て替える」「住み替える」「着替える」「替え歌」「替え玉」「吹き替え」「模様替え」「衣替え」「代替わり」「年度替わり」

「かえる」のほかに「かわる」という動詞があり、その連用形として「かわり」という形もあります。比較的意味が似ていてやっかいな同訓異字ですが、大きく分けるとすれば、「変える」と「代える」「換える」「替える」となります。後者の3つで迷ったらひらがな書きにするのが原則です。『標準用字用例辞典』では、「変える」以外すべてひらがな書きになっていますが、限定使用の「遺伝子組み換え」「予算組み替え」や、「振替」「両替」「替え歌」「替え玉」「替え地」などの熟語は例外的に許容されています。

「代える」「換える」「替える」の中でも特に「換える」と「替える」は境界線があいまいで、辞典でも同じように扱われていたりします。基本的に、「換える」は別の何かと交換する、「替える」は前の物を新しい物にする、という違いがあるものの、それだけではすべてカバーしきれないのが現状です。換金という熟語から見れば「円をドルに換える」、為替という熟語から見れば「円をドルに替える」など、見解が分かれているものも多くあります。

迷ったらひらがな書きにする前に、原則のように同じ意味の熟語を思い浮かべてみます。「店長の代わり」は「代理」、「空気を入れ換える」は「換気」といった具合です。また、「乗換」「引換」「日替わり定食」「吹替」のように、日常よく目にする熟語を覚えておくと使い分けがしやすくなります。ここで注目したいのは、「交代」と「交替」という同音異字です。用字用語辞典では「交代」に統一するのが原則ですので、両者は同義と考えてよいのですが、「かえる」等の訓読みで使用する場合、主に人に対しては「代える」とします。にんべんの漢字であることがその根拠となっていますが、そういう意味で「お代わり」は少し特殊かもしれません。よく口にする言葉であるものの、書く機会があまりないからか正しい漢字表記が周知されていないようです。

ここで平日の連載は一区切りとさせていただきます。来週からは不定期の書き込みになりますが、今後もこのブログを迷ったときの辞典がわりに活用していただければ幸いです。毎日ご愛読いただいた方はありがとうございました。

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「刺す」「指す」「挿す」「差す」

原則:
突き通すのは「刺す」。物や方向を示すのは「指す」。木や花は「挿す」。「注す」「射す」「点す」の意を含めその他一般的には「差す」。
用例:
「串を刺す」「とげが刺さる」「鼻を刺すにおい」「くぎを刺す」「本塁で刺される」
「方向を指す」「メーターが時速100kmを指す」「名指しする」「将棋を指す」
「花瓶に花を挿す」「挿し木をする」「かんざしを挿す」
「傘を差す」「嫌気が差す」「地域に根差す」「しょうゆを差(注)す」「日が差(射)す」「目薬を差(点)す」

「注す」「射す」「点す」、いずれも表外音訓のため「差す」に置きかえます。よく工事現場などで「指差し確認」という表示を見かけますが、辞典的には「指さし」とひらがな書きになります。「人さし指」も同様です。「指指し」「人指し指」と「指」がだぶって具合が悪いためですが、ひらがな書きを嫌って「指差し」「人差し指」と「差し」を当てるほうが、そのうち一般的になるかもしれません。また、指を使うためか、将棋は「指す」とするのが興味深いです。

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「取る」「撮る」「採る」「捕る」「執る」

原則:
一般的には「取る」。撮影は「撮る」。採取、採用は「採る」。捕獲は「捕る」。職務に当たる、扱うは「執る」。
用例:
「手数料を取る」「資格を取る」「汚れを取る」「コップを取る」「年を取る」「悪意と取る」「時間も手間も取る」「メモを取る」
「写真を撮る」「隠し撮り」
「山菜を採る」「新人を採る」
「魚を捕る」「生け捕り」
「指揮を執る」「筆を執る」

ほかに、「獲る」「穫る」「摂る」「盗る」「録る」がありますが、いずれも表外音訓のため、「獲る」は「捕る」で置きかえ、その他は「取る」かひらがな書きにします。一般的には「取る」、その他は用例のように限定的に使用し、迷ったらひらがな書きにします。『標準用字用例辞典』では、「手数料を取る」「資格を取る」「汚れを取る」までの「取る」、「撮る」、採用の「採る」は漢字書き、それ以外は「捕る」「執る」も含めてひらがな書きとなっていますが、「生け捕る」「召し捕る」「捕り物」などの慣用句は漢字書きが許容されていますので、注意が必要です。

写真や映画の「撮る」ですが、ビデオを撮影するのは「撮る」、録画するのは「と(録)る」となります。獲物は「捕る」ですが、用例の山菜のほかキノコや木の実、貝や昆布などは「採る」となります。

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「止まる」「留まる」「泊まる」

原則:
「stop」の意は「止まる」。動かないように固定する、そこにとどまるのは「留まる」。宿泊、停泊は「泊まる」。
用例:
「電車が止まる」「水道が止まる」「時計が止まる」「流れが止まる」「血が止まる」「息が止まる」「立ち止まる」「呼び止める」「突き止める」「せき止める」「止まり木」「歯止め」「口止め」
「ピンで留める」「ボタンを留める」「目に留まる」「心に留まる」「気に留める」「一命を取り留める」「一発で仕留める」「警察に留め置く」「土留め」「帯留め」「留め袖」「書留」
「宿に泊まる」「泊まり込み」「泊まりがけ」「泊まり客」「船が港に泊まる」

もう一つ、車などが「停まる」という同訓異字がありますが、表外音訓のため「止まる」に置きかえます。いずれも動詞ですが、「とまる」のほかに「とめる」という形があります。派生して、「踏みとどまる」「押しとどめる」など「とどまる」「とどめる」の形もありますが、読みを区別するためひらがな書きにします。『標準用字用例辞典』では、「泊まる」以外はひらがな書きになっています。「泊まる」は完全に他の2つとは意味が異なりますが、「止まる」と「留まる」は意味が似ていて明確に使い分けしにくいので、どちらか迷ったらひらがな書きにします。「足止め」は「足留め」とする辞典もあり、見解が分かれています。不測の事態で動けない状態は「足止め」ですが、その結果そこにとどまることになる状態は「足留め」となるわけです。

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「早い」と「速い」

原則:
主に時間に関する「early」の意は「早い」。主に速度に関する「quick」「fast」「speedy」の意は「速い」。
用例:
「予定より早い」「あきらめるのは早い」「早起き」「気が早い」「早い者勝ち」「のみ込みが早い」「いち早く」「遅かれ早かれ」「素早い」「手っ取り早い」「早い話が」「火の回りが早い」「矢継ぎ早」「早くも1年」
「頭の回転が速い」「テンポが速い」「ペースが速い」「走るのが速い」「球が速い」「川の流れが速い」

「はやい」という形容詞ですが、副詞の「はやく」、名詞の「はやさ」という連用形があり、「はやまる」「はやめる」という動詞もあります。「早い」はある時間より前という意で使用します。違いがわかっているようで、実際には迷うことも多い同訓異字です。「宅配ピザを頼んだら予定より早く来た。このピザ屋は配達するのが速い」――このような使い分けになります。

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「乗る」と「載る」

原則:
物の上に上がる、乗り物で移動する、調子や動きに合わせるなどの行為や動作は「乗る」。掲載、記載、積載、搭載の意は「載る」。
用例:
「踏み台に乗る」「子供をひざに乗せる」「子供を車に乗せる」「リズムに乗る」「風に乗る」「波に乗る」「軌道に乗る」「時流に乗る」「図に乗る」「調子に乗る」「おだてに乗る」「口車に乗る」「相談に乗る」「その手には乗らない」「1万円の大台に乗る」「化粧が乗る」「脂が乗った魚」「電波に乗せる」
「新聞に記事が載る」「週刊誌に写真が載る」「メニューに載る」「車に荷物を載せる」「棚に荷物を載せる」

「乗る」の使用は用例のように多岐にわたりますが、「載る」は人以外に対して限定的に使用します。同じ車でも、人なら「乗る」、物なら「載る」となります。いずれも「のる」のほかに「のせる」の形があります。

難しいのは、物を置くときの「のる」です。荷物を置いたり積み込むのは「積載」とイコールで結びつけやすいのですが、「机の上に載っている本」「テーブルに皿を載せる」「パンにチーズを載せる」など、何かの上に物を置いたりトッピングしたりするときは、イメージ的に「積載」と結びつけにくいため、使用頻度の高い「乗る」とするほうが多いようです。東京の方言「のっける」も、辞典には「乗っける」「載っける」両方の記載がありますが、実際には「載っける」はあまり見かけません。そういう意味で、本来は「載る」とすべき場合でも、上記の用例以外は「乗る」も許容しているのが実情です。

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「匂う」と「臭う」

原則:
物から発散し、漂ってきて嗅覚を刺激するにおいのうち、好ましくないもの限定的には「臭う」、その他全般的には「匂う」。
用例:
「花が匂う」「芳香剤の匂い」「ステーキが香ばしく焼ける匂い」
「トイレが臭う」「排水口が臭う」「生ごみの臭い」「犯罪の臭い」

「におう」は動詞ですが、「におい」という連用形で使用することが多くあります。「匂」は、新常用漢字表に追加予定の表外漢字です。「臭う」は、新常用漢字表の読みに追加された表外音訓です。よって、現時点では「におう」とひらがな書きにするのが原則となっています。

好ましくないものが「臭う」なのは、「臭(くさ)い」というもう一つの読みによります。「匂う」は好ましくないもの以外全般的に使用しますが、特に好ましい場合は「香る」とします。生ごみの臭いを好ましいと感じる人はいないと思いますが、においの感じ方は人それぞれ異なりますので、例えば焼き肉がおいしそうなにおいであれば「匂い」、胸やけしそうだったり煙のにおいが不快に感じるなら「臭い」と使い分けます。同様に、トイレのドアをあけて好ましい芳香剤の香りがしたら「匂い」、悪臭がしたら「臭い」とし、どちらとも言えなかったり感じ方によらない場合は「匂い」かひらがな書きにします。

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「解ける」と「溶ける」

原則:
ほどける、ほぐれる意は「解ける」。固体が液体になるのは物質が溶解するのは「溶ける」。
用例:
「ひもが解ける」「帯が解ける」「緊張が解ける」「打ち解ける」「問題が解ける」「なぞが解ける」「誤解が解ける」「謹慎が解ける」「雪解け」
「アイスが溶ける」「砂糖が水に溶ける」「暑さでアスファルトが溶ける」「氷が溶けて薄くなったジュース」「地域社会に溶け込む」

ほかに「融ける」という同訓異字もありますが、表外音訓のためどちらかに置きかえます。また、金属は「熔ける」とする場合もありますが、表外漢字のため一般に使用しません。比較的使い分けしやすい同訓異字ですが、用例に「雪解け」とあるように、自然現象としての「氷が解ける」は「解」のほうになりますので、同じ氷でも注意が必要です。

※原則の「溶ける」定義が適切でなかったため修正しました。(2016/01/12)

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「努める」「務める」「勤める」

原則:
努力は「努める」。任務は「務める」。勤労は「勤める」。
用例:
「解決に努める」「サービスに努める」「努めて平静を装う」
「司会を務める」「議長を務める」「役員を務める」「案内役を務める」
「会社に勤める」「勤め先」「勤め人」「定年まで勤め上げる」

「努める」と同義の「勉める」「力める」は表外音訓のため「努める」に置きかえます。いずれも語源は同じですが、原則の意味で使い分ける比較的ポピュラーな同訓異字です。変換ミスをしないよう注意します。

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「下げる」と「提げる」

原則:
「上げる」の対義語は「下げる」。手に持つのは「提げる」。
用例:
「頭を下げる」「いすを後ろに下げる」「食器を下げる」「留飲を下げる」
「両手に荷物を提げる」「手提げかばん」「首からカメラを提げる」

「提げる」はまさに「提灯」のイメージで使用しますが、「ぶら下げる」は「下げる」ほうになります。「下げる」は「上げる」の対義語以外に片づけたり引っ込めたりする意もあるなど、その使用頻度の多さに比べて「提げる」は限定的に使用します。

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