漢字書きとひらがな書き

「飲む」と「のむ」

原則:
主に液体は「飲む」(=「drink」)と漢字書き。それ以外は「のむ」とひらがな書き。
用例:
「水を飲む」「酒を飲む」「飲み食い」「飲みかけ」「飲み干す」「がぶ飲み」「飲み明かす」「飲み倒す」「飲みつぶす」
「蛇が卵を丸のみした」「たばこをのむ」「要求をのむ」「条件をのむ」「波にのまれる」「雰囲気にのまれる」「相手をのんでかかる」「息をのむ」「涙をのむ」「かたずをのむ」「うのみにする」「こつをのみ込む」「早のみ込み」「煮え湯をのまされる」

ひらがな書きにするほうは「呑む」という漢字を当てるものもありますが、表外漢字のため一般に使用しません。用例のように、比喩的表現はひらがな書きにすると覚えておくといいでしょう。薬は、『標準用字用例辞典』ではすべて「飲む」ですが、『記者ハンドブック』など、粉薬やドリンク剤は「飲む」、錠剤は「のむ」と使い分け、種類が不明なときはひらがな書きとする辞典もあります。

「飲む」は酒にまつわる熟語が多くあります。「飲み倒す」は酒を飲んで代金を支払わないこと、「飲みつぶす」は酒を飲んで財産をなくすことで、「身上をつぶす」ともいいます。飲み過ぎて動けなくなることを「つぶれる」といいますが、「飲みつぶす」と「飲みつぶれる」は似ているようで意味が異なりますので注意します。ちなみに、「潰す」「潰れる」は表外漢字ですのでひらがな書きにしますが、新常用漢字表に漢字・読みともに追加される予定です。飲み明かすのはいいですが、飲み倒したり飲みつぶして人生が破綻しないようにしたいものです。自戒を込めて……

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「ひげ」

原則:
「髭」「鬚」「髯」、いずれも表外漢字のため「ひげ」とひらがな書き。

同じ「ひげ」でも3つの漢字があります。大辞泉より引用です。

「髭」は口ひげ、「鬚」はあごひげ、「髯」はほおひげをいう。

漢字書きにするときは、上記に従って使い分けが必要ということになります。

今回はコネタマからネタ拝借し、休憩を兼ねて表外漢字・表外音訓について書きます。

個人的に、男性のひげはステキだと思います。この「すてき」ですが、「すばらしい」の「す」に接尾語の「てき」を付けたものらしく、「素敵」も「素的」も当て字だそうです。一般には「素敵」がよく使用されると思いますが、『記者ハンドブック』などでも「すてき」とひらがな書きになっています。ただ、この場合、ひらがな書きでは感じが出ないので、「ステキ」とカタカナ書きにしました。以前、触れたことがありますが、ここで取り上げている表記はあくまで原則です。この「触れる」は漢字書きですが、『標準用字用例辞典』では「ふれ回る」のように広く知らせる意はひらがな書きになっています。ほかに「狂れる」という同訓異字がありますが、表外音訓のため「気がふれる」などとひらがな書きにします。

ひげの思い出を一つ。中学のころ、友達に借りたレコードで初めてRCサクセションに出会いました。音楽や詞も衝撃的でしたが、それと同じくらい、清志郎の唇の下に生やしているひげが気になって仕方なかったのを覚えています。先日亡くなっていろんな思い出がよみがえりました。「ころ」の「頃」、「よみがえる」の「蘇る」「甦る」、いずれも表外漢字なので、原則ひらがな書きにします。

もう一つひげの思い出としては、子供のころ、父の無精ひげにさわったときの、亀の子だわしのような痛気持ちよかった感触が懐かしいです。そう考えると、比較的長く伸ばしているひげよりも、イチロー系の無精ひげのほうに魅力を感じます。さわってみたい衝動に駆られるので、実はひげフェチかもしれません。「触る」は表外漢字・表外音訓ではありませんが、『標準用字用例辞典』ではひらがな書きになっています。「触れる」と「触る」は送り仮名に注意が必要です。




コネタマ参加中: 男の人のひげってどう思う?

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「時めく」と「ときめく」

原則:
栄える、もてはやされるのは「時めく」と漢字書き。心が躍る、期待や喜びで胸がどきどきするのは「ときめく」とひらがな書き。
用例:
「今を時めく新進気鋭の作家」
「思いがけない再会に胸がときめく」

どちらも同じ意味と思われることが多いのですが、上記のような意味の違いがありますので、適切に使い分けたい語です。「時めく」はこの動詞の形しかありませんが、「ときめく」は「ときめき」という名詞の形もあります。大橋純子「シルエット・ロマンス」の詞に「ときめきを止めないで」とあったのを思い出しました。一時期よくカラオケで歌いました。年齢がバレそうです。

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「時」と「とき」

原則:
時刻や時間そのものを示すときは「時」と漢字書き。「~の場合」などは「とき」とひらがな書き。
用例:
「時の人」「時の権力」「時の流れ」「時と場合」「時は金なり」「時が解決する」「時々」「時折」「時には」「時たま」「時として」「時あたかも」「今を時めく」「売り時・買い時」「梅雨時」
「あるとき」「あのとき」「このとき」「そのとき」「行けないときは」「事故が起きたときは」「採用するときは」「卒業するときに当たり」「いざというとき」「危急存亡のとき」「困ったときの神頼み」

漢字書きは具体的、限定的に使用します。どちらも漢字書きにしている場合が多く見られますが、実はこのような使い分けがあることをぜひ知っていただきたい語です。「売り時・買い時」「梅雨時」は、『標準用字用例辞典』ではひらがな書きです。「時に元禄元年」や「時に発作を起こすことがある」のような副詞は漢字書きですが、「時に、あの件はどうなりましたか」のような接続詞は、『標準用字用例辞典』ではひらがな書きです。また、間違えやすいところでは、「ときの声」は「時」ではなく、「勝ちどき」と同じ「鬨」で、これは表外漢字ですのでひらがな書きにします。

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「かしょ」

原則:
特定の部分・場所は「個所」または「箇所」と漢字書き。特定の部分・場所を数える助数詞は「カ所」。
用例:
「訂正個所」「疑問に思う個所」「読めない個所がある」
「3カ所」「数カ所」「何カ所」

「個(か)」は表外音訓なのですが、漢字書きは『標準用字用例辞典』のみ「箇所」で、それ以外の辞典では「個所」となっています。助数詞は、「か所」や「ヶ所」の使用もよく見られますが、どの用字用例辞典でもカタカナ大文字の「カ」となっています。いずれにせよ、同一文書内では決めた表記で統一するようにします。

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「位」と「くらい/ぐらい」

原則:
地位・身分・等級・階級・称号、また十進法での数字の位置や桁は「位」と漢字書き。副助詞の「~くらい/ぐらい」はひらがな書き。
用例:
「国王の位につく」「位が高い」「位負け」「百の位」「位取り」
「このくらい」「それぐらい」「3人ぐらい」「断られるくらいなら頼まない」「目に見えないくらい小さい」「料理ぐらいつくれる」「孫くらいかわいいものはない」

副助詞を「~位」と漢字書きにしているのをよく見かけますが、正しくはひらがな書きにします。この場合、「くらい」でも「ぐらい」でもどちらでもよいことになっています。私も昔どちらかに統一すべきなのかと悩んだことがありますが、悩む必要はないということです。

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「良く」と「よく」

原則:
十分、たびたび、非常になどの意の副詞はひらがな書きで「よく」。
用例:
「歯をよく磨く」「よく勉強する」「よくわかる」「よく似ている」「よく書けた」「よく来てくれた」「よく来られたものだ」「よく行く店」「よく物忘れをする」

「翌」「欲」「浴」「翼」などの同音異字もありますが、ここでは形容詞の「よい」から転じた副詞の「よく」を取り上げます。

「よい」または「よく」と読む漢字は「良」「善」「好」「能」の4つがあり、うち「好」と「能」は表外音訓です。『標準用字用例辞典』ではすべてひらがな書きになりますが、それ以外は基本的に、形容詞は漢字書き、副詞はひらがな書きで区別します。優良の意は「良」、善良の意は「善」ですが、一般には「良」を使用する頻度が多く、「善」は「善い行い」など使用が限定的です。英語ではどちらも「good」で使い分けが難しいので、迷ったらひらがな書きにします。

形容詞は漢字書きとしましたが、「やってもよい」「それでよい」「もうよい」などの終止形・連体形は「いい」とする場合が多いため、ひらがな書きにします。何でも「良い」「良く」と漢字書きにしている場合を“よく”見受けますが、適切に使い分けたい語の一つです。

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「言う」と「いう」

原則:
「say」の意で、言葉にして述べるときは漢字書きで「言う」。「言う」の実質的な意味が薄いときはひらがな書きで「いう」。
用例:
「言いたいことを言う」「彼が言うには」「新聞でそう言っている」「はっきり言って」「簡潔に言えば」「逆に言うと」「言わざるを得ない」「言うまでもない」「そう言わんばかり」「だれが何と言っても」
「一般にコミックという」「彼が始めたのが発端という」「こういうことに決定した」「そういう例がある」「どちらかというと」「その意味からいって」「その点からいえば」「なぜかといえば」「そういえば」「とはいえ」「あっという間」「何というか」「何といっても」

用例を見ると、主に「~という」の形で、言った人や言ったことがはっきりしなかったり、慣用的な言い回しはひらがな書きであるのがおわかりいただけると思います。最後の用例を見ると、「だれが何と言っても」は漢字書き、「何といっても」はひらがな書きになっていますが、「何といっても」は「なんたって」や「どう考えても」のように他と比べて強調する慣用的な言い回しですので、このように使い分けます。

迷う例は用例から外しました。「彼女は女傑といわれている」「成功したといえる」のように、「~といわれ(てい)る」「~といえる」は、『標準用字用例辞典』では漢字書き、『記者ハンドブック』ではひらがな書きになっています。言っている人を限定的にとらえるか、一般的にとらえるかの解釈の違いと思われますが、このように迷う場合はひらがな書きにします。

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「通り」と「とおり/どおり」

原則:
「~どおり」「~のとおり」と下に付く形で、「~」と同じ状態かそのくらいの程度を表すときはひらがな書き。それ以外の「street」「through」などの意は漢字書き。
用例:
「九分どおり」「予想どおり」「そのとおり」「ご存じのとおり」「次のとおり」
「大通り」「通り道」「にぎやかな通り」「銀座通り」「通り魔」「通りすがり」「風の通り」「声の通り」「通り一遍」「一通り」

どちらも漢字書きにして使い分けされていないことの多い語ですが、公用文の基準となる「文部省用字用語例」にも使い分けの記載があります。「一通り」は「ひととおり」の読みで「一通り目を通す」など、始めから終わりまでざっと、全体的にという意のほか、「一通り」「二通り」「三通り」などと組み合わせや種類を数える意があります。

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「かかわる」

原則:
◎「かかわる」、△「関わる」「係わる」「拘(わ)る」

「関わる」「係わる」「拘(わ)る」いずれも表外音訓のため、一般に「かかわる」とひらがな書きにします。「関わる」「係わる」は漢字書きも浸透していますので許容する場合もありますが、「拘(わ)る」は「かかわる」とも「こだわる」とも読みますので漢字書きは避けます。「~にもかかわらず」もひらがな書きにします。

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