« 2009年5月 | トップページ | 2009年7月 »

2009年6月

「修業」と「修行」

原則:
学問・技芸などを習い身につけるのは「修業」。仏法・武道などを修め努めるのは「修行」。
用例:
「板前修業」「花嫁修業」
「修行僧」「武者修行」

「修業」は比較的その期間が決まっていることが多く、一般に広く使用されますが、「修行」は一生の努めとしてある境地にたどり着くまで諸国を巡礼するなど、古風な表現として使用されます。「修業中の身」も、一生の努めと考えれば「修行中の身」となります。板前などの職人もその意味では「修行」ととらえることができますが、花嫁の場合はできれば早々に修業から卒業したいことでしょう。

|

「下げる」と「提げる」

原則:
「上げる」の対義語は「下げる」。手に持つのは「提げる」。
用例:
「頭を下げる」「いすを後ろに下げる」「食器を下げる」「留飲を下げる」
「両手に荷物を提げる」「手提げかばん」「首からカメラを提げる」

「提げる」はまさに「提灯」のイメージで使用しますが、「ぶら下げる」は「下げる」ほうになります。「下げる」は「上げる」の対義語以外に片づけたり引っ込めたりする意もあるなど、その使用頻度の多さに比べて「提げる」は限定的に使用します。

|

「混む」と「込む」

原則:
混雑するのは「混む」だが、表外音訓のため「込む」で置きかえ。

「混(こ)む」は新常用漢字表にすでに追加されている読みで、現時点でもかなり一般的に使用されていますので、差し支えなければ使用可としています。

|

「時めく」と「ときめく」

原則:
栄える、もてはやされるのは「時めく」と漢字書き。心が躍る、期待や喜びで胸がどきどきするのは「ときめく」とひらがな書き。
用例:
「今を時めく新進気鋭の作家」
「思いがけない再会に胸がときめく」

どちらも同じ意味と思われることが多いのですが、上記のような意味の違いがありますので、適切に使い分けたい語です。「時めく」はこの動詞の形しかありませんが、「ときめく」は「ときめき」という名詞の形もあります。大橋純子「シルエット・ロマンス」の詞に「ときめきを止めないで」とあったのを思い出しました。一時期よくカラオケで歌いました。年齢がバレそうです。

|

「時」と「とき」

原則:
時刻や時間そのものを示すときは「時」と漢字書き。「~の場合」などは「とき」とひらがな書き。
用例:
「時の人」「時の権力」「時の流れ」「時と場合」「時は金なり」「時が解決する」「時々」「時折」「時には」「時たま」「時として」「時あたかも」「今を時めく」「売り時・買い時」「梅雨時」
「あるとき」「あのとき」「このとき」「そのとき」「行けないときは」「事故が起きたときは」「採用するときは」「卒業するときに当たり」「いざというとき」「危急存亡のとき」「困ったときの神頼み」

漢字書きは具体的、限定的に使用します。どちらも漢字書きにしている場合が多く見られますが、実はこのような使い分けがあることをぜひ知っていただきたい語です。「売り時・買い時」「梅雨時」は、『標準用字用例辞典』ではひらがな書きです。「時に元禄元年」や「時に発作を起こすことがある」のような副詞は漢字書きですが、「時に、あの件はどうなりましたか」のような接続詞は、『標準用字用例辞典』ではひらがな書きです。また、間違えやすいところでは、「ときの声」は「時」ではなく、「勝ちどき」と同じ「鬨」で、これは表外漢字ですのでひらがな書きにします。

|

「書き入れ時」

原則:
◎「書き入れ時」。×「掻き入れ時」。

帳簿の書き入れに忙しい意より、「年末の書き入れ時」や「ランチタイムの書き入れ時」など、主にお店などで最も利益の上がる時をいいます。『標準用字用例辞典』では「書き入れどき」と、「時」はひらがな書きになっています。商売繁盛の熊手のように、お客を掻き集めるイメージで「掻き入れ時」とする誤用が多いので、注意が必要です。

|

「張る」と「貼る」

原則:
ポスター、チラシなどの紙は「貼る」だが、表外漢字のため「張る」に置きかえ。

「貼り紙」なども「張り紙」に置きかえますが、「貼」は2010年の新常用漢字表に追加予定の漢字で、現時点でもかなり一般的に使用されていますので、差し支えなければ使用可としています。

|

「回り」と「周り」

原則:
回転、経由、巡回、接尾語は「回り」。周囲、周辺、範囲は「周り」。
用例:
「車輪の回りが悪い」「火・酒の回りが早い」「あいさつ回り」「回りくどい」「回り道」「外回り」「一回り」「水回り」「首回り」「手回り品」「身の回り」
「家の周り」「口の周りをぬぐう」「周りの人」

もう一つ「廻り」という同訓異字がありますが、表外漢字のため「回り」に置きかえます。「回り」は「回る」という動詞がありますが、「周り」は名詞のみです。「~回り」と名詞の下に付く接尾語は「回り」のほうになります。数字の下に付く「一回り」や「二回り」などは、「グラウンドを一回りする」のように文字どおり回る回数を表したり、「一回り小さい」「年齢が一回り違う」のように程度を表したりします。名詞の下に付く「水回り」は、キッチン・バス・トイレなど建物の中で水をよく使う場所をいいますが、「キッチンの周り」とした場合は「周り」のほうになります。同様に、「テーブル回り」「レジ回り」も、「テーブルの周り」「レジの周り」となります。一方、「首回り」「手回り品」「身の回り」などは慣用的にこの形で使用しますので、比較的混同しやすい同訓異字といえます。

|

「固い」「堅い」「硬い」

原則:
しっかりと固まり、ゆるがないのは「固い」(⇔「緩い」)。手がたく、確実な様子は「堅い」(⇔「もろい」)。力強い性質、こわばっているのは「硬い」(⇔「軟らかい」)。
用例:
「固い友情」「固い意志」「固い握手」「固いきずな」「頭が固い」「固く禁じる」「固く信じる」「固く口を閉ざす」「財布のひもが固い」
「手堅い商売」「堅い役人」「堅い守り」「堅苦しい」「義理堅い」「口が堅い」「優勝は堅い」
「硬い肉」「硬い石」「硬い鉛筆」「硬い表現」「硬い態度」「硬い目つき」「緊張で硬くなる」

表外音訓ではありませんが、『標準用字用例辞典』ではいずれも「かたい」とひらがな書きになっています。ほかに難しい意の「難い」という同訓異字があります。一般には「固い」の使用頻度が多いと思いますので、特に「堅い」「硬い」にする必要性を感じない限り「固い」とするか、迷ったらひらがな書きにします。

熟語から連想すると比較的判断しやすいので、一例を挙げておきます。
「固い」・・・強固、確固、頑固、断固
「堅い」・・・堅実、堅牢、堅物、堅気
「硬い」・・・硬化、硬直、硬質、強硬

|

「柔らか」と「軟らか」

原則:
しなやか、おだやか、ふんわりしているのは「柔らか」(⇔「剛」)。ぐにゃぐにゃ、手ごたえや歯ごたえがないのは「軟らか」(⇔「硬い」)。
用例:
「柔らかい布団」「柔らかい体」「柔らかな日差し」「お手柔らかに」「物腰が柔らかい」
「軟らかい肉」「軟らかな地盤」「軟らかい鉛筆」「軟らかい文体」

「やわらかい」は、形容動詞「やわらか」の形容詞化という位置づけになります。表外音訓ではありませんが、『標準用字用例辞典』ではどちらも「やわらか」とひらがな書きになっていますので、迷ったら無理に漢字を当てません。

|

「沸く」と「湧く」

原則:
煮立つ、熱狂するのは「沸く」。生じる、出るのは「わ(湧)く」。
用例:
「お湯が沸く」「場内が沸く」「勝利に沸く」「沸き上がる」「沸き返る」「沸き立つ」
「温泉がわく」「涙がわき出る」「しらみがわく」「実感がわかない」「勇気がわく」

「湧」及び同義の「涌」は表外漢字のため、「わく」とひらがな書きにします。「涌」は「涌井」のような人名で使用しますが、動詞の「涌く」は一般に使用しません。用例のように、「沸く」には「沸き上がる」「沸き返る」「沸き立つ」のバリエーションがありますが、「わき出る」は「湧く」のほうです。同じく「湧く」のほうの「わき水」はひらがな書きですが、「湧水(ゆうすい)」は、『標準用字用例辞典』では例外的に「湧水」と漢字書きで、『記者ハンドブック』では「わき水」に置きかえとなっています。

「降ってわいたような災難」は「湧」のほうです。「血わき肉躍る」も「湧」ですが、「沸」を当てる辞典もあり、見解が分かれています。「沸く」と「湧く」の違いを感覚的に表すと、「沸く」はどっと、ふつふつと、「湧く」はじわじわと、こんこんと、といった具合ですので、血が煮えたぎるほど興奮するようなら「沸」、勇ましく武者震いするようなら「湧」と、感覚によって決めてもいいでしょう。

|

「ウエーター」「ウエートレス」

原則:
◎「ウエーター」「ウエートレス」、○「ウエイター」「ウエイトレス」

最近では、「喫茶店」が「カフェ」になっているのと同様に、「ウエーター」「ウエートレス」も「ホールスタッフ」という言い方をするほうが多くなっています。男女雇用機会均等法により、通常どちらかの性のみの募集が禁止されていることに関係しているのかもしれません。似たような例では、「スチュワーデス」が「客室乗務員」に、「看護婦」が「看護師」に、「保母」が「保育士」に、いつの間にか呼称が変わっています。

この「ウエーター」「ウエートレス」は、「ウエイター」「ウエイトレス」のほか、「ウェーター」「ウェートレス」、「ウェイター」「ウェイトレス」とさまざまな表記がありますが、辞典としては◎の表記が推奨されています。その昔は「お給仕さん」と呼ばれていましたが、言葉は世につれ変わるものです。

|

「定形」と「定型」

原則:
一定の形やサイズは「定形」。決まった型は「定型」。
用例:
「定形郵便物」「定形封筒」
「定型詩」「定型貨物」「定型用紙」

微妙な違いなので混同しがちな同音異字ですが、「定形」はほとんど郵便物に対して使用すると思っていいでしょう。第一種郵便物の手紙のうち、規格内のものを定形郵便物、規格外のものを定形外郵便物といい、定形郵便物であれば、25gまで80円、50gまで90円で送れます。この定形郵便物扱いとなるのが定形封筒で、定形外郵便物扱いとなるのが定形外封筒というわけです。ほかに「提携」という同音異字もあります。

|

「転化」と「転嫁」

原則:
他の状態に変わるのは「転化」。責任や罪を押しつけるのは「転嫁」。
用例:
「農地を宅地に転化する」「量から質への転化」「愛が憎しみに転化する」
「責任転嫁」「罪を他人に転嫁する」「消費税を価格に転嫁する」

比較的意味の違いが明確でありながら、同じ「転」の字が頭に付くため、誤用の多い同音異字といえます。「責任転嫁」は同音異字の問題としてよく出題されます。ほかに「食品添加物」の「添加」という同音異字もあります。

|

「課する」と「科する」

原則:
義務を負わせるのは「課する」。刑罰を負わせるのは「科する」。
用例:
「宿題を課する」「責任を課する」「ノルマを課する」
「禁固刑を科する」「罰金を科する」「ペナルティーを科する」

比較的、「課す」「科す」の形で使うことが多いと思いますが、「課する」「科する」というサ変動詞が正式で、「課す」「科す」はその文語形、または五段化という位置づけになります。以前に刑罰を受けていることを「前科」といいますが、「科する」はその「科」と覚えておくと間違いないでしょう。

もう一つ似た意味の同訓異字に「嫁する」がありますが、「嫁ぐ」という意味のほか、責任や罪を人に押しつけるという意味があります。現在では、「嫁ぐ」意味で「嫁する」とすることはあまりありません。「責任を嫁する」は「責任を転嫁する」の形で使うのが一般的です。「負わせる」と「押しつける」の違いは微妙ですが、前者は正当的に、後者は不当的になすりつけるという意味合いがあります。

|

「かしょ」

原則:
特定の部分・場所は「個所」または「箇所」と漢字書き。特定の部分・場所を数える助数詞は「カ所」。
用例:
「訂正個所」「疑問に思う個所」「読めない個所がある」
「3カ所」「数カ所」「何カ所」

「個(か)」は表外音訓なのですが、漢字書きは『標準用字用例辞典』のみ「箇所」で、それ以外の辞典では「個所」となっています。助数詞は、「か所」や「ヶ所」の使用もよく見られますが、どの用字用例辞典でもカタカナ大文字の「カ」となっています。いずれにせよ、同一文書内では決めた表記で統一するようにします。

|

「位」と「くらい/ぐらい」

原則:
地位・身分・等級・階級・称号、また十進法での数字の位置や桁は「位」と漢字書き。副助詞の「~くらい/ぐらい」はひらがな書き。
用例:
「国王の位につく」「位が高い」「位負け」「百の位」「位取り」
「このくらい」「それぐらい」「3人ぐらい」「断られるくらいなら頼まない」「目に見えないくらい小さい」「料理ぐらいつくれる」「孫くらいかわいいものはない」

副助詞を「~位」と漢字書きにしているのをよく見かけますが、正しくはひらがな書きにします。この場合、「くらい」でも「ぐらい」でもどちらでもよいことになっています。私も昔どちらかに統一すべきなのかと悩んだことがありますが、悩む必要はないということです。

|

「保育」と「哺育」

原則:
乳幼児を育てるのは「保育」。動物が乳を与えて育てるのは「哺育」。
用例:
「保育所」
「人工哺育」

「哺育」の「哺」は表外漢字のため、「保育」で代用してもよいことになっています。先日テレビで、飼育員に育てられている動物の赤ちゃんが一般公開されたというニュースが流れたのですが、よく見ると「人工ほ育」と表記されていました。そこで気になったので取り上げたわけですが、『標準用字用例辞典』でも注意書きとして「畜産関係は哺育」とあるように、実際には動物に関しては「保育」「ほ育」「哺育」と表記が混在しているようです。「哺乳類」「哺乳瓶」などの「哺乳」も、やはり『標準用字用例辞典』ではそのまま例外的に漢字書きとし、それ以外の用字用例辞典では「ほ乳」とするか、「授乳」等に書きかえとなっています。テレビや新聞などはさまざまな受け手に配慮する必要があるのでひらがな書きになっていますが、その必要がなく送り手にも受け手にも暗黙の了解があるようなときは漢字書きにしても差し支えないでしょう。

|

「精算」と「清算」

原則:
金額の過不足を細かく計算するのは「精算」。金銭の貸し借りや関係を整理して結末をつけるのは「清算」。
用例:
「運賃を精算する」「精算所」「車内精算」
「借金を清算する」「過去を清算する」「清算会社」

「せいさん」の同音異字はほかにも「生産」「成算」「凄惨」「青酸」などいろいろありますが、意味が似ていてよく誤変換が見られるのが、この「精算」と「清算」です。どちらもお金にまつわる意味を含んでいますが、日常的なお金のやりとりは「精算」、もう少し深刻な事態の場合は「清算」ととらえてよいでしょう。できれば「清算」するような事態は避けたいものですが、「清算」には同時に「再出発」の意味が込められているように思います。

|

「ちょうど」

原則:
ぴったり、きっちり、たった今、まるで、さながら、などの意の副詞は「ちょうど(丁度)」。日常使う手回りの道具類、小型の家具は「調度」。
用例:
「8時ちょうどの電車」「ちょうど手が空いたところだ」「ちょうど三日月のような形をしている」
「調度品」「新居にふさわしい調度をそろえる」

「丁度」は漢字・読みともに常用漢字表にありますが、副詞であるのと、当て字ということもあって、用字用例辞典ではひらがな書きになっています。これを漢字に変換しようとして、「調度」という誤変換が多く見られますので、「丁度」はひらがな書きの習慣をつけるとケアレスミスも防げると思います。

|

「傘」と「笠」

原則:
頭上にかざすものは「傘」。頭にかぶるものは「かさ(笠)」。
用例:
「雨傘」「傘立て」「核の傘」
「三度がさ」「電灯のかさ」「マツタケのかさ」

梅雨の季節にちなんでもう一例です。「笠」は表外漢字ですので「かさ」とひらがな書きにしますが、「てなもんや三度笠」や橋幸夫の「潮来笠」など、よく目にする漢字ですので、逆に「三度がさ」では気持ち悪いかもしれません。新常用漢字に追加される予定の漢字です。微力な者が権勢者の後援を頼って威張る意の「かさに着る」は、こちらの「笠」になります。

|

「確率」と「確立」

原則:
ある事象が起こる可能性の度合いは「確率」。制度・組織・計画・思想などをしっかり定めるのは「確立」。
用例:
「雨が降る確率」「その確率のほうが高い」
「信頼関係を確立する」「方針を確立する」

6月に入りそろそろ梅雨の季節ですので、毎日降水確率が気になるところですね。どちらも名詞ですが、「確立」は用例のように「する」を付けて動詞のように使用することもあります。この同音異字は意味に明確な違いがありますので、使い分けで悩むことはないと思いますが、誤変換ベストテンに入るぐらい変換ミスを頻繁に見かけます。

|

« 2009年5月 | トップページ | 2009年7月 »