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2009年5月

「外観」と「概観」

原則:
外側から見た様子は「外観」。物事の全体をざっと見渡すのは「概観」。
用例:
「建物の外観」
「世界情勢の概観」「店員の動きを概観する」

ともに名詞ですが、「概観」は用例のように「する」を付けて動詞のように使用することもあります。「外観」の反義語は「内観」と思いがちですが、「内観」本来の意味は「内省」に近く、自己の内面を見つめることです。ただし、建物に関しては外観に対する内観と、ごく一般に使用されています。

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「押さえる」と「抑える」

原則:
固定する、確保する、把握するなどの意は「押さえる」。ある水準を超えないようにする、感情や欲望が高まらないようにする意は「抑える」。
用例:
「文鎮で紙を押さえる」「傷口をガーゼで押さえる」「目頭を押さえる」「現場を押さえる」「財産を差し押さえる」「要点を押さえる」
「明るさを抑えた店内」「物価の上昇を抑える」「相手打線を抑える」「病気の進行を抑える」「怒りを抑える」

送り仮名が「押さえる」「抑える」と異なる点に注意します。主に物理的には「押さえる」、感情をこらえたり、攻撃を食い止めるなど、セーブする意は「抑える」となりますが、迷うときはひらがな書きにします。野球でもリリーフピッチャーが抑えて勝利したときはセーブポイントが付きますね。

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「大目」と「多め」

原則:
主に「大目に見る」の用例で、寛大に扱うのは「大目」。やや多いくらいの分量は「多め」。
用例:
「大目に見る」
「多めに盛る」

『標準用字用例辞典』では「多目」と漢字書きになりますので、注意が必要です。「少なめ」も同様です。同訓異字といえば同訓異字ですが、変換ミスが多いので「間違えやすい表記」に入れました。

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「ファストフード」

原則:
◎「ファストフード」、○「ファーストフード」

原語「fast food」より。「first」ではなく「fast」なので、カタカナ表記では本来「ファストフード」と伸ばしませんが、実際には「ファーストフード」のほうが浸透していますので、逆に原語が「first food」だと思っている方も少なくないのではないでしょうか。かく言う私も、表記は「ファストフード」にしても、話すときはどうしても「ファーストフード」になってしまうのでした。

気になることば-ファーストフード?ファストフード?

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「ウイルス」

原則:
◎「ウイルス」

原語「virus」より。ほかに「ウィルス」「ビールス」「ヴィールス」「バイラス」「ヴァイラス」などと表記する場合がありますが、一般には「ウイルス」と表記します。「バイラス」は英語に、「ビールス」はドイツ語に近い発音で、「ウイルス」はラテン語読みから来ているそうです。新型インフルエンザのニュースが連日報道されていますが、この生物に感染する「ウイルス」のほかに、コンピュータに感染する「コンピュータウイルス」があります。

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「連携」と「連係」

原則:
連絡を取り合って協力するのは「連携」。人や物のつながりは「連係」。
用例:
「関連会社と連携を保つ」「関係各国と緊密な連携を取る」
「手足の連係動作」「内野の連係プレー」

「連繋」という同音異字もありますが、「繋」は表外漢字のため「連係」とします。

使い分けが少し難しく感じますが、行政でよく使用されるのは「省庁間の連携」や「産官学の連携」など「連携」のほうです。スポーツなど一連の動作としては「連係」を使用します。

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「送る」と「贈る」

原則:
迎えるの対義語、届ける、過ごすの意は「送る」。贈与、贈呈の意は「贈る」。
用例:
「荷物を送る」「送り迎え」「義援金・見舞金を送る」「日を送る」「見送る」「順送り」「エール・声援・拍手を送る」「敵に塩を送る」「祝電を送る」「送る言葉(送辞)」
「プレゼントを贈る」「贈り物」「感謝状を贈る」「勲位・称号を贈る」「祝辞を贈る」「贈る言葉」

英語にすると「送る」は「send」、「gift」や「present」は「贈る」となります。人に何かをおくるときは、物理的な意味合いが強ければ「送る」、そこに気持ちが込められていれば「贈る」と考えてよいでしょう。エールや声援、拍手は気持ちを込めておくるときもあると思いますが、概して「送る」とします。上杉謙信が武田信玄に塩を送った逸話もプレゼントの感覚に近いかもしれませんが、「送る」とします。難しいところを用例の最後2例に置きました。祝電は通信手段として「送る」となりますが、祝辞、お祝いの言葉は通常目の前にいる人におくりますので、そこに気持ちを込めて「贈る」となります。ただ、これはおくる人の気持ち次第によって使い分けていいように思います。同様に、卒業生に向けた送辞は単純にいえば「送る言葉」となりますが、そこに気持ちが込められていれば海援隊の「贈る言葉」のようになります。

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「遅れる」と「後れる」

原則:
時間的に間に合わないのは「遅れる」。他より後になり取り残されるのは「後れる」(⇔「先」)。
用例:
「列車に遅れる」「作業が遅れる」「立ち遅れ」「遅ればせながら」
「後れ毛」「後れを取る」「気後れする」「死に後れる」

表外音訓ではありませんが、『標準用字用例辞典』ではどちらも「おくれる」とひらがな書きになっています。使い分けが難しいような気がしますが、「後れる」はほぼ上記用例の限定的な使用と考えてよいでしょう。流行は「遅れ」と「後れ」で辞典により見解が分かれています。

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「後ろ」

原則:
「後(うし)ろ」「後(ご、こう、のち、あと)」「後(おく)れる」
用例:
「後ろ足」「後ろ髪」「後ろ姿」「後ろ向き」「後ろ指」「後ろ前」「後ろめたい」「後ろ暗い」「後ろ盾」

「うしろ」と読ませるとき、送り仮名は「ろ」を振ります。「後」だけなら「ご」「こう」「のち」「あと」と読みます。「後れる」についてはあすの記事で取り上げます。

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「伺う」と「窺う」

原則:
聞く、問う、訪ねるの謙譲語は「伺う」。のぞき見る、様子を見るのは「うかがう」。
用例:
「お話を伺う」「ご都合を伺う」「お宅に伺う」
「顔色をうかがう」「中の様子をうかがう」「機会をうかがう」「うかがい知る」

のぞき見る、様子を見る意の「窺う」は表外漢字のため、「うかがう」とひらがな書きにします。この2つの同訓異字はもともと同語源ということもあってか混同しているのをよく目にしますが、現在では原則のような使い分けをしますので気をつけたいところです。

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「一角」と「一画」

原則:
一つの角、隅、一部分は「一角」。一区画、漢字を一筆で書く線は「一画」。
用例:
「駅前の一角に出店する」「氷山の一角」「優勝候補の一角」
「分譲地の一画」「一点一画」

ほかに、囲いの中を表す「一郭(廓)」という同音異字があり、「歓楽街の一郭」といった用例がありますが、あまり使用されません。「廓」は表外漢字です。

英語にすると、「一角」は「corner」、一区画の意の「一画」は「section」「division」「a plot of land」など、一筆の意は「stroke」となります。土地の一区画を「一筆」といいますが、これは三角や四角の土地が一筆で書けることから来ているそうです。同じ「一画」と表記するのもうなずけますね。

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「痛む」と「傷む」

原則:
心身の痛苦は「痛む」。物が傷ついたり食品が悪くなるのは「傷む」。
用例:
「頭が痛む」「足が痛む」「歯が痛む」「傷が痛む」「心が痛む」「胸が痛む」「人を痛めつける」「痛み入る」「痛み分け」
「家が傷む」「道路が傷む」「本が傷む」「靴が傷む」「機械の傷み」「傷んだ髪」「傷んだ肉」

ほかに、人の死を嘆き悲しむ「悼む」という同訓異字があります。天童荒太さんの小説『悼む人』が第140回直木賞を受賞したのは記憶に新しいところです。

平成15年9月26日の第157回国会における小泉元首相の所信表明演説の中に「今の痛みに耐え明日を良くし」という有名なくだりがありますが、この「痛み」は国民が受ける心身の痛苦を意味しています。その後、優勝した元横綱貴乃花に向けた「痛みに耐え、よく頑張った。感動した!」という名ぜりふも残しましたが、この「痛み」は故障した「足の痛み」を意味しています。痛みに耐えて頑張った結果、貴乃花は引退してしまいましたが、日本の明日は良くなったのでしょうか。

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「暖かい」と「温かい」

原則:
気温など体全体で感じるときは「暖かい」(⇔「寒い」)。体の部分や心で感じるときは「温かい」(⇔「冷たい」)。
用例:
「暖かい気候」「暖かい室内」「暖かい毛布」「暖かい服装」「生暖かい空気」「懐が暖かい」
「温かい料理」「温かい目で見守る」「温かいもてなし」「家庭の温かさ」「旧交を温める」

「暖かい」に対して「寒い」、「温かい」に対して「冷たい」ですので、迷ったらどちらの反義語が当てはまるか考えてみます。「懐が暖かい」の反対は「懐が寒い」、「温かい目」の反対は「冷たい目」という具合です。色は暖色・寒色という言い方をしますので「暖かい色」となりますが、反対に「寒い色」とはあまりせず「冷たい色」とするほうが多いようです。

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「未踏」と「未到」

原則:
まだだれも足を踏み入れたことがない意は「未踏」。まだだれも到達・達成していない意は「未到」。
用例:
「人跡未踏の地」
「前人未到の記録」

先日、女優の森光子さんが主演の舞台「放浪記」で前人未到の2000回上演を達成しましたが、「ぜんじんみとう」は主に「前人未到」という表記で、記録や業績について使用します。「前人未踏の秘境」といった使い方も誤りではありませんが、人がまだ足を踏み入れたことがないときは「人跡未踏」を使用するのが一般的です。

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「図る」「計る」「測る」「量る」「謀る」「諮る」

原則:
企てるは「図る」。数量・時間などは「計る」。広狭・深浅・長短・遠近・高低・大小などは「測る」。容積・軽重などは「量る」。策略は「謀る」。相談は「諮る」。
用例:
「解決を図る」「合理化を図る」「便宜を図る」「自殺を図る」「図らずも」
「タイミングを計る」「国の将来を計る」「計り知れない」
「身長を測る」「距離を測る」「面積を測る」「標高を測る」「水深を測る」「血圧を測る」
「体重を量る」「目方を量る」「容積を量る」「量り売り」
「悪事を謀る」「暗殺を謀る」「まんまと謀られる」
「審議会に諮る」「この議題をお諮りします」

いろんな「はかる」がありますが、どれも常用漢字表に読み・漢字ともありますので、原則や用例のような使い分けをします。ただし、『標準用字用例辞典』では「図る」と「諮る」以外はひらがな書きになります。

意味により大まかなグループ分けをすると、「図る・謀る」「計る・測る・量る」「諮る」の3つになります。逆に言えば、ちょっと特殊な「諮る」以外、そのグループ内では使い分けが難しい場合があるということです。「図る・謀る」は、良いことは「図る」、悪いことは「謀る」で大方間違いありません。「計る」は主に時間で使用しますが、計画の意もあります。メートルや平方メートルは「測る」、立法メートルやグラムは「量る」になりますが、血圧の単位は「mmHg(水銀柱ミリメートル)」です。健康診断などでは「身長と体重を測る」と言ったりしますので、測定の意では体重も「測る」で許容されます。注意が必要なのは、「図らずも」「計り知れない」といった慣用句ですが、「真意をはかりかねる」は「計」「測」、「推しはかる」は「量」「測」と、辞典によって見解が分かれていますので、決めかねるときはひらがな書きにします。

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「メーク」

原則:
◎「メーク」、○「メイク」

原語「make」より。辞典では「メーク」が主、「メイク」が副という扱いですが、「メイク」という表記も一般的に使用されていますので、特にルールがなければ「メイク」も許容します。化粧の意は「メーキャップ」が主で、ほかに「メークアップ」「メイクアップ」などの表記がありますが、「メイキャップ」はあまり使用しません。

1996年に長嶋巨人が首位広島との最大ゲーム差11.5をひっくり返してリーグ優勝を果たした「メークドラマ」は、この年の流行語大賞にも選ばれました。その後、「メークミラクル」や「メークレジェンド」といった言葉が続々と生まれましたが、この「メークドラマ」は当時の長嶋監督による造語(和製英語)だそうですから、その後の「メークミラクル」も「メークレジェンド」も海外では通用しません。テレビ・新聞等では「メーク」と表記されていましたので、おや?と思った方も多いのではないでしょうか。

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「メーン」

原則:
◎「メーン」、○「メイン」

原語「main」より。辞典では「メーン」が主、「メイン」が副という扱いですが、「メイン」という表記も一般的に使用されていますので、特にルールがなければ「メイン」も許容します。「メインイベント」「メインページ」「メインメニュー」「メインバンク」などの複合語でも「メイン」のほうが一般的ですので、逆に「メーン」とするのに抵抗を感じる方も多いのではないでしょうか。

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犯罪か犯罪でないか

100本目の記事になりましたので、ここでちょっと休憩です。

これまでさまざまな表記について取り上げてきましたが、あいまいな部分が残るものや、納得いかないようなものもあったかと思います。実際、私が『標準用字用例辞典』をめくりながらテープ起こしの仕事を始めたころも、なぜ「増える」ではなく「ふえる」なのか、「増える」のほうが一般的ではないかと納得いかなかったものです。「増える」でもいい辞典もあるのでなおさらですが、これはルールと割り切らなければなりません。『標準用字用例辞典』に準拠するというルールがある以上、それに従うのは表記にかかわる仕事をする者として当然のことです。これは、明らかな間違いをそのまま放置しておくことと同じで、ルールに反することを当社では“犯罪”といって、この点に関しては厳しく目を光らせています。

しかし、クライアントによっては定まった辞典がない場合もあります。辞典があればルールが決められますので、それに従っているかいないか、間違っているかいないか、揺らぎがあるかないかだけの簡単な話で済みますが、恥ずかしい間違いがなければある程度任せられるといった、割合許容範囲が広く取られている場合が実はとても頭を悩ませることになります。恥ずかしいと感じる度合いも人それぞれで、同じ間違いでも100人中100人が恥ずかしいと思うものもあれば、100人中20人は恥ずかしくないと思うものもあります。法律も解釈の仕方で有罪にも無罪にもなる事例があり、有罪でも裁判官によって量刑が異なったりしますが、それと同じで、こちらのほうが望ましいが明らかに恥ずかしい間違いとは言い切れないという場合が多々あります。

こちらで辞典を決めてしまえば簡単かもしれませんが、そうすることでかえって書いた人の気持ちが伝わりにくくなることもありますので、そういう比較的自由度の高い文章の際は、当社では最低限の校正基準を定め、それに従うことをルールとした上で、クライアントの立場になって、おや?と首をかしげたり、恥ずかしい思いをしないような校正を心がけるようにしています。そうすることで、少なくとも“犯罪”だけは未然に防ぐようにしています。

人間はルールがあったり指示や命令をされたほうが楽に感じるもので、逆に自由にやっていいと任されると、さてどうしたものか?と悩み出してしまうものです。表記の辞典はそのために存在するもので、文章を書いたり校正したりする際のよりどころとなるものですが、比較的自由度の高い文章を校正する際は、まずオリジナルに忠実であることを原則としています。それを書いた人になってみて、そういう気持ちを伝えたいからこういう表記にしたのか、などと想像し、それが“犯罪”にならない限り許容します。結局のところ文章とは、それを書く人が伝えたいことを忠実に伝えるための手段ですので、その役割がきちんと果たせるようなお手伝いを校正者は行っているというわけです。

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